調査研究

 社会情勢の変化に伴って起こる労働に関する諸問題について、自ら調査研究を行うとともに(21世紀労働法研究会、人事労務管理研究会及び比較労働法研究会による調査研究(平成23年度までは21世紀雇用政策研究会も設置))、専門的事項については学者・研究者等からなるグループ等に調査研究を委託しています。

令和3年度の委託研究 

1「雇用・就業をめぐる諸政策の重層化と労働法の役割」

  (主査:荒木 尚志 東京大学大学院教授)

 働き方改革そしてコロナ禍の影響等により、働き方の多様化が急速に進んでいる。ITCの進歩により、伝統的な使用者の指揮命令に拘束された働き方とは異なる役務提供が展開され、また、プラットフォームエコノミーは、労働法が伝統的に名宛人としてきた使用者を特定しがたい就業形態をもたらしている。また、コロナ禍は、通常の労働者の多くをテレワークによる就業を余儀なくし、他方、エッセンシャル・ワークに従事する者は対面就業を強いられるという分断ももたらした。さらに、コロナ禍は、独立自営で役務を提供する者の社会的保護の必要性が、労働者に比して勝るとも劣らぬ状況であることを認識させた。

 このような情勢の中で、雇用・非雇用による役務提供者に対して、労働法のみならず関係隣接法領域による施策が重層的あるいは相互補完的に展開されてきている。そこでは、労働法と他法領域の施策の交錯問題の整序や調整が新たな課題として浮上してきている。

 例えば、労働法と独占禁止法の交錯領域については、2021年3月26日に内閣官房成長戦略会議事務局・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の連名による「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定された。同ガイドラインでは、フリーランスが独立自営業者として活動している限りは、独占禁止法・下請法による規律に服するが、フリーランスとして業務を行っていても、実質的に雇用に該当する場合には、労働関係法令が適用されることを確認している。しかしフリーランス等の雇用類似就業者の取扱いについてはデジタル・プラットフォームにおけるギグワーカー等を含めて、検討が必要である。

 また、コロナ禍による就業困難状況の出現は、雇用・非雇用を問わず、就業者の収入確保施策を要請し、労働法と社会保障法、税法等が相互補完的に対応すべき課題を認識させている。さらにコロナ禍による経済情勢の悪化は、雇用調整や企業倒産時のセーフティーネットの再検討、そしてその過程で生ずる雇用流動化に伴う情報・知的財産保護等にも及ぶ課題の検討を要請している。これらは労働法と倒産法、知財法の交錯問題を惹起する。

 そして、コロナ禍以前から生じていたESGやSDGsといったコーポレート・ガバナンスと労働関係、「ビジネスと人権」の問題は、コロナ禍が終息しても課題となる。ここでは、労働法と会社法、国際人権法、国際経済法との交錯問題が提起される。

 このような隣接法領域と労働法の調整問題は、同時に労働法自体の独自性・特質を再確認し、労働法が雇用環境変化にどう対応し、その任務を果たすべきかの検討を促す。

 そこで、本プロジェクトでは、雇用・就業をめぐる問題状況の複雑化と諸政策の重層化を踏まえて、労働法と関係隣接法領域の交錯・調整問題について検討を行うと共に、それらの検討によって浮き彫りとなる労働法の独自性・特質、そして施策の実効性をも視野に入れた労働法の役割の再検討を課題とする。これらの課題は、諸外国においても共通して問題となっているので、比較法的分析を踏まえた考察を行う。

 

2「高齢者の雇用継続推進にかかる職域開拓に関する調査研究Ⅱ」

   (主査:鬼丸朋子 中央大学経済学部教授)

 前年度においては、高齢者雇用安定法の改正が図られたことを受けて、その実効性や課題、問題点を検討することを目的に、事例研究や労働組合を対象にしたアンケート調査を実施した。

 その際、特に事例研究においては「高齢者の労働力流動化をめぐる現状と課題」という副題を設けて、高齢者の出向・転籍、再就職支援問題に焦点を当てた聞き取り調査を実施した。背景にあった問題意識は、70歳までの雇用延長のためには、社外活用を従来以上に促進せざるを得なくなるが、そのための今日的留意点や課題を改めて検討するというところにあった。

 周知のように、この課題は、かつて失業なき労働移動というコンセプトでさまざま研究されてきた歴史があった。しかし、今回の研究で分かったことは、再就職支援問題がクローズアップされてから30年以上を経過し、このテーマに関する産業界の受け止め方が様変わりしているということだった。背景には、不況対策や構造調整が必要になったとき、希望退職や早期退職の募集をするという対応策が一般化してきたことがあった。こうした変化を受けて、今では、出向・転籍、再就職支援は必ずしも緊急避難や雇用調整の手段ではなく、人事処遇政策の一部として位置づけるのが一般的になってきているということだった。

 一方、労働組合に対するアンケート調査では、継続雇用推進に関して労使で検討する機会を設け一緒に検討するという回答が大きく増えるなど、この問題に関する労働組合の関心が高いことが確認できた。この背景には、これまでの65歳までの雇用延長と違い、70歳までの雇用延長となると、60歳定年から延長期間が10年間になることから、継続雇用者の活用の仕方について労働組合としてどう関わっていくかということに加えて、組合員の範囲をどうするか、改めて組織化するのかどうかなど、検討しなければならない課題が多くなっているという認識があるものと考えられる。

 このため、本年度においては、改めて社内活用、社外活用を含めて70歳までの雇用延長問題を深掘りするために、次の三つの切り口で調査研究を進めることとする。

 一つは、産別を中心にした労働組合との共同研究とアンケート調査。ここでは、産別や単組と一緒に研究会を実施し、労働組合としての検討課題を整理するとともに求められるアプローチの方向を検討する。こうした取り組みを踏まえて、再度、労働組合を対象にした高齢者継続雇用に関する対応策についての深掘りしたアンケート調査を実施する。

 二つ目に、65歳オーバー雇用企業に関する事例研究。ここでは、産業雇用安定センターが進めている「キャリア人材バンク」の活動に関する研究と、65歳オーバー雇用を積極的に進めている企業の事例研究を実施する。

 三つ目に、文献に関する継続研究を実施する。